街から始める鳥獣対策

鹿肉・猪肉商品を販売する、鹿児島県曽於市財部町はたからべ森の学校を伺う その2

鹿肉・猪肉商品を販売する、鹿児島県曽於市財部町はたからべ森の学校を伺う その2

「私の畑にも猪が出るようになってしまって」

もともとは財部北中学校の理科教員を務めた四本さん。定年退職後に狩猟免許を取得し、財部町付近の野生鳥獣の変化、特にご自身が畑作を行うこともあり、鳥獣の行動範囲の変化を身近に感じたと言います。

「当初は定年後には木工でもしながら過ごしたかったんだけどね。有害鳥獣駆除をした際、付近の方から深く感謝されたことをきっかけに価値観を大きく変えて、こちらの道へ進むことを決めたんです」

山の変化を語る四本さん
山の変化を語る四本さん

財部町で長くを過ごしてきた四本さんは、植物の生態からも山の経年変化に気付いたのだそう。特に国立公園霧島付近に鹿が大量発生し、笹を始めとする植物が根こそぎ無くなっていったのだとか。

またその頃には霧島市付近の猟師数がゼロになってしまい、駆除を頼もうにも人材がいない状況のなか、これは自分がやるしかない、と決意したと言います。

「鹿による食害で年々山が変わっていくのを見ましたね。なんとかしなきゃいけないと思いました」

しかし実際狩猟免許を取得し罠を設置しても、なかなか獲物がかからない。当然彼らも死活問題なので、そう簡単には捕まってくれない。さらに冬季となると罠が凍ってしまい、せっかく獣が通っても罠が動作せずに悔しい思いを何度も経験したと言います。九州とはいえ夜の山間部、気温は氷点下になることもしばしばあるのだとか。

設置した罠を確認しに同行
設置した罠を確認しに同行

「2〜3年はほとんど捕れなかったね」

しかし年々の経験を経て徐々に捕獲できる個体数が増え、そこで前回の問題と直面します。どうしても処理しきれない量の肉が発生してしまうのだ。

ここ通ってるね、と四本さん
ここ通ってるね、と四本さん

「いくら有害鳥獣とはいえ、命をいただくものだから無駄にしたくない」

特に、小さな個体がかかった際には止め刺しをためらってしまい、しばしば持って帰って飼育に及んでしまうこともあるという。

「だってねぇ、こんな小さいのは可愛そうだろう。せめてもっと大きくなって、皆に美味しく食べてもらうことがせめてもの供養だと思うんですよ」

私も個人的に興味があったので、ご自宅で飼育している猪を拝見させてもらいに伺わせてもらった。

その際、四本さんの畑の中に猪の出没跡があった。自身も被害に遭いながら、しかしその元凶である幼体は可愛すぎるために殺傷をためらってしまう。しかし逃がすわけにはいかない。言葉にするには複雑な感情がそこにはあった。

自宅で鶏も飼育している四本さん
鶏も飼育している
自宅で飼育中の猪
自宅で飼育中の猪

私も猟師なので分かるのだが、猪は罠にかかると、明らかに敵意を向けてこちらへ突進を繰り返してくる。しかし、四本さんによって飼育されている個体は、こちらを恐れずむしろ寄ってくるのだ。その目には敵意もなく、無邪気にエサをねだる姿があった。

猪の幼体をブラッシングする四本さん
猪の幼体をブラッシングする四本さん

「こんな可愛くて、育ちきった際に止めを刺すの抵抗ありませんか?」

なんなら名前まで付けてしまっていて、家畜よりもペットのような関係になっているのを見て、つい聞いてしまった。

隙間からエサをねだる猪
隙間からエサをねだる猪

「そりゃあね、無理だよ。だからその時は知人に頼んでやってもらうんですよ」

動物を身近に飼育し、それを食肉として口に運ぶ。歴史を紐解けば、人類はそうやって暮らしてきた期間のほうが圧倒的に長いのだが。字面や写真で見るのと、実際の現場との間に情報ロスが多すぎる行為だ。

生きていくには、何かしらの命を奪う行為は避けられない。現代は流通とテクノロジーの進化によって、血の多いビジュアルは外注し、距離を離すことが当たり前となっている。もちろんそれは多数によって望まれた結果であり、今さら自給自足の世界に戻ることは不可能だろう。

しかし多くの人が、書物や映像ではなく、食肉生産の実現場に立ち会うことが、人生の中でたった一回でも経験することができれば、世の中は少しだけ良い方向へ、思いやりの深い世界へ、向かっていけるのではないだろうかと、この文章を書きながら思いを馳せた。

次回、堀内さんの経営するたか森カフェのインタビューを掲載します。

カテゴリー: ジビエグルメ   鳥獣トラブル  
ライター:島田寿朗

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