街から始める鳥獣対策

こうして母はハンターになりました、静岡県は伊豆市修善寺にて。

こうして母はハンターになりました、静岡県は伊豆市修善寺にて。
ある日の娘、号泣の理由
ぴかぴかの1年生。待ち遠しい収獲の直前に…
獣が去った後に残ったもの
すぐ傍にせまる、獣の脅威
子供と獣の距離
万が一…!?
よし。母がそいつ、獲ってやる!
ヒトゴトからジブンゴトに。
母には何ができるのか。
そしてついに…!

ある日の娘、号泣の理由

ぴかぴかの1年生。待ち遠しい収獲の直前に…

可愛い可愛い一人娘が小学校に入学し、学校のすぐ裏の畑ではクラスの皆で毎日交代でお世話をしながら野菜を育てていました。水をあげたり雑草を抜いたり美味しく育ってねと声をかけたり。それはそれは大切に育て、収穫を待ち焦がれていたのです。

さあ、もうすぐ収獲できそう! というある日…

夕方、学童保育に通う娘をいつも通りお迎えに行くと、いつになく沈んだ表情。学校の様子を聞いても今日のおやつが何かと聞いても、もにょもにょと歯切れの悪い様子です。お友達とケンカでもしたかな? と思いながら車に乗り込むと、急に泣き出す娘。

「みんなで一生懸命育てた畑が、猪に壊されちゃったの…うわーーーーん!!」 都会育ちではないものの、小学校の畑が猪にやられるなどという経験は勿論したこともない母、驚愕の事実に一瞬固まってしまいました。

獣が去った後に残ったもの

家路につく車中で、泣きじゃくる娘をなだめながら話を聞いていきました。ひとしきり泣いた後、ぽつりぽつりと話し出した彼女が教えてくれたのは予想以上の事態だったのです。

朝、うきうきしながら育てていた畑の様子を見に行くと、遠目からでもわかる昨日とは違う光景。慌てて走り寄ると、ブルドーザーでも入ったのかと思うくらいの惨状が広がり、当然、大切な野菜たちは見るも無残な姿になってしまっていたのだそう。

あまりの大惨事に慌てて職員室へ走り込み先生に訴えたところ、どうやら昨夜、猪が現れ畑を縦横無尽に掘り起こしてしまったらしいと言われた娘。

作物を狙ったのか土中のミミズを狙ったのかは定かではないが、とにかく全ての野菜がなぎ倒され、後に残されたのはすっかり姿を変えた荒れ地のみ。ただただショックを受けた娘は、その日一日の出来事をそれ以降ほとんど覚えていないと言うのです。

すぐ傍にせまる、獣の脅威

子供と獣の距離

その当時住んでいた地域では、獣害が深刻であることも知識としては知っていました。自宅から夜、鹿の鳴き声が聞こえてきて非常に驚いた移住当初の記憶もあります。

しかし、子供たちが日々生活する環境にまで獣が迫っている!? 畑の場所は、小学校の裏口のすぐ隣。その裏口から登下校をする子供も少なくはありません。登下校以外にも畑の様子を見に行ったり、その周辺を子供たちだけで往来することは日常的な光景であり全ての行動に大人がついて守っていられる状況ではないのです。

万が一…!?

獣は基本的には夜に餌を求めて動き回ります。しかし、昼間も全く活動しないわけではありません。

万が一、昼間に行動する個体が学校のそばに現れたら…? 万が一、子供がそこに居合わせてしまったら…? 万が一、子供が獣に襲われてしまったら…!?

娘から話を聞いた時、母は背筋がスーっと冷えていったのをリアルに覚えています。実際、過去にも(そしてその後にも)校庭に猪が迷い込んだことに対する注意喚起の防災メールが届いたという事実もありましたが、正直なところそこまで深刻にはとらえていなかった事実が、ぶわっ! とすぐ背後までせまってきたのです。

よし。母がそいつ、獲ってやる!

ヒトゴトからジブンゴトに。

これまでもタケノコを先に掘られてしまって悔しい想いをしたという程度には身近にはあったものの、畑も持たず、市内には毎晩のように庭先まで鹿や猪が現れる家もあるらしいが、そんな状況でもなかった私の生活に、突如として現実化された獣害。ヒトゴトだった地域課題が、我が身にやけにリアルに降りかかってきました。改めて調べてみると、市内の農業被害額は年間でも億を軽く超えているという事や獣相手の交通事故はそれほど珍しくない事などなど、想像以上の現状が見えてきました。

母には何ができるのか。

子供を産む以前は、レストランで料理人として働いていた私。西洋料理の世界では、ジビエといえば高級食材です。その当時、お店のスーシェフ(二番手のシェフ)が猟友会に入り銃猟をしていたので、本来ならばペーペーの新米料理人は恐れ多くも触ることなどできるはずのない食材に、頻繁ではないながらもありがたいことに出会うことが出来ていました。思い起こせば遠くの世界だと思っていた狩猟者が、こんな身近にいたということもその後に大きな影響をあたえていたのです。

さて、娘の安全のために母ができることはないだろうかと考えたとき、心の底に眠っていた狩猟への興味、食材としてのジビエへの興味がすっと浮上してきました。高級食材ゆえにめったに購入することもできないレア食材が、もし自分で手に入れられたら自由に食べられて研究もできる、という料理人としてのワクワク感。自分の興味が娘を守ることに繋がるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。ましてや元来、お肉を食べることは大好きで、これまで“何処かの誰か”が殺めてきた命を頂いて出来上がった我が身を顧みて、急に無責任な気持ちにすらなってきてしまいました。ここまで来たら、あとの選択肢は一つです。自分が狩猟者になるしかない! でもこれを仕事にすることはできないから、趣味として自分の生活に取り入れてみよう! うん。それならできそうだ!

…我ながら何という極端な思考回路。狩猟を趣味にしようという考えになぜ何の疑問も持たずに至ってしまったのかと当時の自分に小一時間ほど問いただしたいくらいです。しかし、ただ眺めていただけのニュースが我が身に降りかかってきた瞬間の衝撃は、母になった私にはそれほど大きなものだったのです。

そしてついに…!

さて、ここからはその後のお話。仕事と子育てに追われる慌ただしい生活の中、何とか 狩猟免許試験の申込を済ませ、得意の一夜漬けで必死にラストスパートをかけて挑んだ結果、何とか無事に罠免許を取得することが出来ました。試験当日、実家に娘を預けて出発する母の背中にかけてくれた娘のエールの心強かったこと!

ちなみに、私が猟銃ではなく罠で免許を取得した理由は二つ。一つ目は、試験科目や実技の違い。直接的に殺傷能力のある銃を扱う為の免許は、それ単体では命を奪う事ができない罠免許より科目数も多く実技も難しいのです。二つ目は銃の所持許可のハードルの高さと費用がかさむこと。猟銃の狩猟免許とは別に警察による所持許可を取らなければ銃を所有することはできず、年に1回の立ち入り検査や射撃練習の義務等の金銭的・時間的制約も多くなり、猟に出れば弾代もかさみます。何せ、無謀にも趣味で始めようとするのですからそれほどのお金をかけることはできません。こうして私は罠を選んだのです。

無事に免許を取得できたのもの、見切り発車で経験もない私が一人で獣を捉えることなどできるはずもなく、どうしようかと悩むところに友人が自分の親戚の方を紹介してくれたことが、その後の大きな転機となります。狩猟歴40年以上という大ベテランおじいちゃまについて猟場に出ることもできるようになり、ついには愛する娘のカタキである大猪を捉えることができたのです!!

狩り”ガール”と呼ぶには少々(?)年を重ね過ぎてしまった母ではありましたが、女性の少ない狩猟の世界では何とまだまだ“女の子”扱いをしてもらえるので、これ幸いと図々しくも大先輩方に手取り足取り教えて頂けるようになったおかげで、件の大猪にも遭遇する事が出来ました。

娘には「母がカタキを獲ってやる!」と豪語したものの、猪を見たときのあのすくむような 恐怖感は今でも忘れられません。くくり罠にかかって暴れる猪のあまりのパワーに怖くなり、お師匠さまであるおじいちゃまと銃の免許を持っている先輩に電話をして仕留めて頂き、動かなくなった猪を運ぶお手伝いしかできなかったという情けないオチ。しかし、先輩が持ってきたエアガン(小学校の真裏だったので銃声を響かせるわけにはいかず、音の小さなエアガンは威力もやや弱め)では太刀打ちができなかったほどの100キロ越えの大猪だったという言い訳は、ため息をつきそうな娘にもちゃんと伝えた母でありました。

モモ肉を持ち上げる野田さんの娘

カテゴリー: 狩猟の道   狩りガール  
ライター:野田康代

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