街から始める鳥獣対策

イノシシは本当に住処(すみか)を奪われたのか、環境省・農林水産省のデータを元に考察しました

イノシシは本当に住処(すみか)を奪われたのか、環境省・農林水産省のデータを元に考察しました

近ごろ「荒川の河川敷にイノシシが出た!」とか「工場の敷地内にイノシシが侵入!」のように人の生活圏にイノシシが出没するケースが増えています。そのたびに警察や猟友会の方々がイノシシを追い回す様子がテレビで放映されますが、その様子を見た人たちがツイッターなどで以下のように騒いでいます。

  • 人間が動物の住処を奪ったからだ
  • 開発による自然破壊で山から餌が無くなったからだ

果たしてこれらの内容は正しいのでしょうか。

イノシシの生息数は約4倍に増えている
イノシシが増えた要因
自然が豊かになったから
餌が豊富になったから
イノシシが町に出てくる理由
獣害を減らすにはどうすればいいのか
まとめ

イノシシの生息数は約4倍に増えている

環境省自然環境局がイノシシの個体数を推定した結果では1989年 → 2010年でイノシシは約4倍に増えています。

個体数推定の結果(イノシシ)
※個体数推定の結果(イノシシ)

出典:統計手法による全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等について(環境省)

見ての通りイノシシの数は約30年前と比較してかなり増えています。尚、2010年頃を境にイノシシの数が微減していますが、行政が駆除に乗り出し、駆除したイノシシ1頭当たりの報奨金の増額や、駆除の効率化(狩猟技術の向上)などにより捕獲頭数が増えたことが要因だと思われます。

イノシシが増えた要因

自然が豊かになったから

イノシシが増えた理由として「オオカミの絶滅」や「狩猟者の減少」などがよく挙げられます。しかしオオカミが絶滅したと言われているのは1905年と言われておりイノシシが増え始めた時期と相関が見られません。

また、狩猟者の減少が理由というのも狩猟技術向上により捕獲頭数が増えている中でイノシシ個体数が増えており相関が見られません(下図参照)。

イノシシ捕獲数推移
※捕獲数は増加の傾向にある為、狩猟者の減少がイノシシ増加に寄与しているというのは事実と異なる)

出典:イノシシ全国の捕獲数推移(捕獲目的別)(環境省)

では何故イノシシがこんなにも増えてしまったのかと言うと、実は山が豊かになった事が一番の要因のようなのです

「え? 開発で自然はどんどん破壊されたんじゃないの?」と思うかもしれませんが、イノシシが増えた事について考えると幾分か異なります。つまり開発によって削られた山もありますが、それ以外の山は開発とは逆の一途を辿ったのです。

森林面積・森林蓄積の経年グラフ
※森林面積は減ることなく、むしろ手つかずになった事により森林資源が増大している

出典:森林面積・森林蓄積の経年グラフ(農林水産省)

終戦後、日本で石油が大量に消費されるようになるまで、日本の山々は現在のように木で覆われたものばかりではなかったのです。理由は、薪や炭が主な燃料として使われていた為、山の木が伐採されていたからです。つまり日本人の生活と木の利用が密接に関係していたのです。

ところが石油の利用が進むにつれて木の利用が止まり、山は次第に青々と茂りイノシシの住処が拡大していったのです。実のところ、ここ最近の山の状態は400年ぶりに緑豊かになっているとも言われています。

餌が豊富になったから

木の伐採をやめて放置すればそこには自然林が復活する為、当然イノシシの餌も増えていきます。また高齢化や農業の規模拡大・集中化により、農業を続けられなくなった土地が放置され、耕作放棄地として荒れていきました。そして雑草が生えミミズが増え、イノシシにとって好都合な餌場が出来上がったわけです。

つまり人間が山に入らず農地を手放した事により、動物にとっては最適な餌場を提供してしまったのです。

イノシシが町に出てくる理由

イノシシが町に出てくるようになったのは個体数の増大だけが理由ではありません。

燃料として木々を伐採していた頃、里山付近では木の密度が低く(疎林と呼ぶ)、動物たちは住みやすい奥山に生息していました。つまり疎林が見えないバリケード(緩衝地帯)となり、里山そしてそれ以下の町にイノシシが出没することは少なかったのです。

ところが前述のとおり里山の木も青々と茂るようになり、動物たちは奥山から里山へと生息域を拡大し、持っていた緩衝作用を失い、町へイノシシが出没しやすくなってしまったのです。

山を利用していた頃の里山
疎林(緩衝地帯)有り
現在の里山
疎林(緩衝地帯)無し

また里山へ降りてきたイノシシは農作物の味を知ってしまいます。農作物は栄養価も高くイノシシにとっては最高の餌です。しかも売り切れなかった農作物は残渣として畑に放置されていることが多いので、イノシシにとっては楽園のような場所になってしまいました。残念なことに獣害に苦しむ農家が自らイノシシを呼び込み、さらには繁殖に加担している図式が成り立っていたのです。

獣害を減らすにはどうしたらいいのか

手っ取り早そうに感じるのが、駆除によるイノシシ減少です。しかしイノシシが増えてしまった要因である生息地と餌の供給の問題を解決しない事は、蛇口を止めずに流れる水を減らそうとするような愚かな行為だとも考えられます。

もちろん駆除は続ける必要があり、今後拡大していくと思います。ただしイノシシの住処と餌を減らさない事には永遠に駆除に力を入れていかなければなりません。

イノシシの住処と餌を減らす為には、山の管理をして住処を制限し、人里から生息地を遠ざける必要があります。それによって餌が制限され、さらには里山の残渣を食べる為にはそれなりの移動が伴うようになる為、イノシシの出没率が減ると考えられます。また耕作放棄地についても、耕して農地として復活させるか新しい活用法を見いだす事が大切です。農作物の残渣については動物があさる事が出来ないようにしっかりと埋設する事は今すぐにでも実施すべき事案です。

電気柵などによるバリケードで農作物被害を減らす事はイノシシの餌を絶ち、個体数を減らす意味でも重要です。ただし高齢化や費用面で難しい地域もあると思うので行政と連携した対応が求められます。

まとめ

イノシシが町に出てくると交通事故を起こしたり、突然対面してしまった人間に直接危害を加えたりすることもあります。これはテレビの向こう側の他人事ではなく、今後皆さんのすぐ近くで起こる可能性のある問題なのです。

イノシシが増え、生息域を拡大させている現実を見ると「住処を奪われているのは人間なのではないか」とさえ思えてきます。

「人間なんだから街に出てきた動物は保護をすることくらい出来るだろう」という意見を見た事がありますが、あまりにも個体数の規模が理解されていないことと、人間を「人間様」だと思い込み何でも出来ると過信していることに驚きました。これを見てから僕は「人間 対 動物」ではなく「動物 対 動物」のサバイバルだと思うようになりました。人間も動物であり出来る事には限界があります。「イノシシがかわいそう」などという感情論では済まされません。

とはいえ「駆除されるイノシシがかわいそう」と思う気持ちは人として大切な心だと思います。だからこそ駆除だけに力を入れるのではなく、適正な山の管理・農作物に対する防御や残渣の処理が大切だと感じます。

以前、イノシシ被害に悩む農家の方と立ち話をした時に「頼むからイノシシを獲ってくれ」と懇願されましが、足元にはジャガイモの残渣がばら撒かれていました。農家の方々は残渣がイノシシの繁殖に加担しているという認識はないのでしょう。 今必要な事は、こういった知識を広げる事なのかもしれません。

カテゴリー: 鳥獣トラブル  
ライター:ちーとん。

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